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その者は深い溜息をつくと、空を見上げた。鉛色の空から冷たい雨が降り注ぐ。それはその者のフサフサと豊かな銀色の髪に、まるで水晶玉のネックレスのように雫玉を作る。髪は腰のあたりまで伸ばされており、見事なストレートだ。面長の輪郭に高く上品な鼻。引き締まった怜悧さを示す唇。キリリとした銀色の眉。長い銀色の帳に囲まれた瞳は切れ長で、月光を思わせる銀色だ。冷たい程に澄み切っているが、どことなく憂いを帯びて艶めいている。純白の狩衣姿に、真珠色の肌が柔らかく映える。細身で背丈は驚くほど高い。
「眺めの空とはよく言ったものだ。物想い耽って空を見上げた、とな」
呟いたその声は、凜としてよく通るがどことなく哀し気だ。その者はしばし過去へと、その想いの翼を広げた。
一面に広がる白金の房。通常ならサワサワと奥床しい音を立て、優雅に秋風にたゆたう風流な光景が広がる。だが、今はあいにく雨に打たれ、ふさふさの穂は一枚の布ピタリと合わさり、皆一斉に俯いている。その者が立つ場所は、周囲は杉や檜等の木々に囲まれ、見事に広がる広大な芒野原であった。その者は何かの気配を感じたのだろう。体の向きは変えずに、心持ち首だけ右横に向き、背後を見やる。耳を澄ますと、シトシトと降る雨音に混じり、ヒタヒタと何かが近づく音がする。
「失礼致します。茅将軍!」
どうやら空を見上げ、雨の中佇んでいた男は茅と言う名を持つ将軍だったようだ。
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