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その者は跪き、頭を下げる。茅葺色の直垂に身を包み、白金色の長い髪を後ろの高い位置で一つにまとめている。一見、線は細いが鍛え上げられた筋肉が無駄な肉をそぎ落としている。見かけに寄らず、低めのしっかりとした声の持ち主だ。
「露見草大尉か?」
名を呼ばれた男はその涼やかな黄金色の眼差しで、大将を見上げた。
「申し上げます! 東側は既に占領されてしまった模様。こちらにあの黄色の大群が押し寄せて来るのも時間の問題かと思われます!」
「……そうか」
厳かに切り出す露見草に、大将はため息混じりに答える。
「セイタカアワダチソウ、別名『背高秋の麒麟草』……黄色の大群。今は、最早打つ手無し……か」
「はい、夏の麒麟草が嘆いております。『私たちが大和の国の古来の花ですのに』と」
「……だろうな。『気を落とすな。我が国全ての草花は、そなたと同意見だ。今は共に耐え忍ぼうぞ』と伝えよ」
「はいっ!」
茅はしばし、何かを考え込む。露見草は静かに、将軍の指示を待った。ほどなくして茅はキッと大尉を見つめる。
「全ての芒に告げよ! 『今はひたすら耐え忍ぶ時期。我が大和の国、秋の代表の一員としての誇りにかけ、今こそ大地に根付き底力を見せつけるのだ! かなりの時を要するが、地の利は我らにある。風媒花である我らの生命力を侮った、虫媒花の黄色の大群に思い知らせてやるのだ!』と」
「承知致しました!」
「それと、乱草隊長にはくれぐれも早まるな、今は耐えろ! と伝えろ」
「御意!」
「更に、薬師の尾花には奴らの生態の研究を急げと伝えよ」
「畏まりました!」
露見草は一礼すると、速やかにその場を去った。その後ろ姿を、寂し気な眼差しで見送る茅将軍。そう。彼は全芒を統べる者。
彼らは芒の精霊たちなのであった。
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