第二話 侵略の記録

2/8
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「あの黄色の大群が我が国にやって来たのは、人間たちのいう『明治時代』の半ばあたりに、園芸用植物としてやってきたのが始まりです。ですが、爆発的な広がりを見せたのは 1964年(昭和39年)の頃です。東京オリンピックの為に大量に輸入されてきた木材に、彼らの種子がついて来たことが原因との事です」  薬師である尾花は、調べた結果を茅に淡々と報告している。落ち着いた柔らかな声の持ち主だ。色白の彼女は紺色の直垂に身を包み、細面に猫を思わせる琥珀色の瞳の、たいそう整った顔立ちをしていた。細いフレームの銀縁眼鏡が、知性と思慮深さをより濃く彩る。琥珀色の艶やかな髪は、後ろの高い位置でアップスタイルにまとめていた。 「そこから、あちこちの土手やら原っぱやらに繁殖しまくった、て訳か。今じゃ秋になりゃこの世の栄華を一心に受けました! てなデカい顔してヌボーッと立つ木偶(でく)の坊の黄色い大群が猛威を振るってやがる!」  怒りを露わにするのは、乱草(みだれぐさ)である。ぞんざいな言葉遣いとは裏腹に、まだあどけなさの残る可愛らしい声色(こわいろ)だ。生き生きと輝く大きな茶色の瞳が印象的な小柄な少年である。黄土色の直垂に身を包み、日焼けした肌に鳶色の髪をツンツンと立つほどに短くした髪。なんとなく秋田犬の子どもを思わせ、いかにも身軽そうだ。 「これこれ、乱草少尉、そうカッカするでない」  茅は穏やかにたしなめた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!