第二話 侵略の記録

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「ホーッホッホホ……」  どこかで女の高笑いが聞こえる。どれほどの被害を被ったのか偵察に全国を回っていた茅はその声に引き寄せられるように声の主を探した。気配を悟られぬよう、完全に風と一体化する。 (何だ? この凄まじいまでの花の気は?)  茅は今まで感じた事のない気の力に圧倒された。そこは一面に広がる黄色の野原だ。青々とした茎、肉厚の葉、平均したら2mはあろうかと思われるほど背が高く、先端には天に向かってまるで房のように派手な黄色の花をつける。遠くから見るとその房はまるで黄色い花穂のようだ。 (ここも、既に秋の草花たちは全滅か……。もうすっかり『秋の麒麟草(きりんそう)』といして我が国の代表と化しつつあるな……)  茅は寂しく感じた。 (もう、時代は変わってしまうのだろうか? 万葉の時代、有名な歌人が詠んだ『萩の花 尾花葛花 撫子の花 女郎花また藤袴 朝顔の花』この歌の示すような、風流で情感豊かな秋は、もう幻となってしまうのだろうか……)  ふと弱気になる。 (このまま白旗をあげ、全面降参した方が生き残れるのでは無いだろうか? ……ん? あれは……)  その時ふと、目の端に懐かしい可憐な気配を感じた。 (……そなたは、女郎花?)  一面のセイタカアワダチソウの中に埋もれて、ひっそりと、誰の目にも触れぬようにつつましやかに咲く柔らかな黄色の花。 (茅様、はい。私だけではございません。みな、こうしてひっそりと人の目も、この黄色い妖魔の集団にも気づかれぬようひそやかに咲いております)  弱弱しい声で、女郎花は応じる。精霊は、花の中に隠れているようだ。目立たぬように、気付かれぬように配慮しての事だろう。精霊たちはみな、その一本だけの花に己の全てをかけて咲かせているのだ。少し離れた場所に目をやる。
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