第二話 侵略の記録

5/8

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
(藤袴! それに萩も!……) (はい、少し先には葛も、撫子も咲いております。皆、その身一つだけですが、その日が来るのを待ちながら、ひたすら耐え忍んでおりまする)  藤袴は声を潜めて囁くようにして応じた。萩は頷きながら、寂し気な笑みを浮かべている。 (皆、その日を信じて細々と力を蓄えているのですわ)  葛の花が風にその身を任せながら答えた。 (こう見えても私、結構逆境に強いのです。大和撫子、昔の女性の控えめで慎ましやかだけれども芯の強さを称える言の葉、ありますでしょう?)  撫子は悪戯な笑みを浮かべた。 (……そうだな、歴史を見てもそうだ。栄華は永遠には続かない。まして驕り高ぶれば尚更……)  迷いの霧が晴れ渡ったようだ。 (皆、このままその時が来るまで耐え忍ぼうぞ! 黄色の妖魔に毒されたこの大地。通常なら生存は叶わぬところだが、ソナタたちは何とか自分の咲く場所を死守している。これは奇跡の力だ。人間どもに言わせたら「あり得ない!」と揃ってこたえる事例となるだろう。私も勇気を得た、有難う)  彼は照れたように微笑んだ。その銀色の瞳に、意志の力の光が甦る。再び風に乗り、侵略者の声の主を探した。  勝ち誇ったような笑い声の主は、このセイタカアワダチソウの精霊たちの長であったようだ。複数の家臣たちを従えている。そのまま茅は、気配を消したまま風と一体化して彼女たちの周りを飛び交う。 「楽勝じゃなぁ。この国に私達の意思とは無関係に連れて来られて、自生を初めてから何年くらい経つ?」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加