笑う人

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そう思い、私は休日、電車に乗り、なるべく学校から遠い、そしてあまり今時の女子高生が立ち寄らないような駅に降りた。静かだ。休日だが、あまり人はいない。ここなら、大丈夫だ。何が大丈夫なのかわからないまま、先に何があるのかわからないまま、私は歩いた。15分ほど歩き、さて私は帰り道を覚えているだろうか、と帰りの心配をしていたところ、それを見つけた。 それは、丁寧な字で書かれた、簡素な張り紙だった。 「このお店をお手伝いしてくださる方を募集しております」という文字と、湯気の出ているコップの絵だけ。もっと書くべきことがあるのではないだろうか。 喫茶店、だろうか。微かにコーヒーの香りがする。その香りに誘われるように扉を開けようとすると、先に扉が開き、咄嗟に後ろに下がる。 「すみません、脅かせてしまいましたか」 出てきたのは、髭を鼻の下に生やし、髪の毛をオールバックにした男性だった。60代くらいだろうか。手にはジョウロを持っていた。 「いいお天気だから、花壇に水をあげようかと思っていまして、花も喜ぶだろうと、つい早足立ってしまいました」 何か質問をしたわけでもないのだが、男性は恥ずかしそうに頭を掻いた。 「いえ、こちらこそそんな時にお邪魔してしまってすみません」 私は笑顔を作り、そう言った。 「これはご丁寧に。お詫びにコーヒーをご馳走させてください。コーヒーは、苦手ではありませんか?」 男性はジョウロを持ったまま頭を下げ、聞いてきた。ご丁寧なのはあなたの方だ、と思った。
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