第七章 眠る猫、狂う猫 二

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 人造の魂は、赤ん坊と同じで、毎日接し話し掛け、面倒をみる事で産まれているという。赤ン坊も意識は無いが、やがて笑いだす。人形には成長がなく頭脳も無いが、関係ないと説明されていた。 「まあ、実際に人形を引き取った家族を訪ねてみると、人形は生きているという思いはありましたね」  桜本は、実際に人形に会ってきたが、肌の感じや笑顔は、生きている子供のようだったという。 「でも、人ではないと認識しているのですよ。ペットに近いのかな。世話をしていると表情が見えてきて、情が沸いてしまうようなものですよ」  少し、道端は頷いてから、首を振った。 「まあ、人形の向きで、笑ったり怒ったりしているように見えるのですよ。いい造りです。しかも、僅かに、本当に動いていた」  道端は、測量士でもあり、つい測定してしまったという。すると、人形の唇が僅かだが動いていたらしい。 「湿気とかでしょう……でも、凄い技巧です」  道端が言うと、本当に凄い技術に感じるので不思議だ。 「中には、どうしても魂が欲しいので、生贄を捧げてしまったという人もいましたよ……」  それは子供を失ってしまった夫婦で、人形が生まれてこられなかった自分達の子供のように思えたらしい。 「猫を捧げていて。怖かったですよ……猫を幾匹もケージに入れて、人形と一緒に空き家に一か月ほど放置するのだそうです。すると共食いの果てに、人形だけがある」  残っているのは、人形と骨と皮になっていた猫らしい。すると、人形が笑うようになったという。桜本が人形を見せて貰うと、笑っているのだが、狂人のように見えたという。 「猫は決して笑わないでしょう。気持ち良さそうな表情はするけど、笑う事はない。でも、その人形が猫に近づくと、猫が笑いだすのですよ……」  それは死んだ獣の匂いで、マタタビのような酩酊作用があるらしい。 「猫が狂い出すというのかな……それを見て飼い主は、人形と仲良しだと喜んでいた」  桜本は、猫の飼い主も狂っていると感じたらしい。 「猫も恐怖で笑うのですよ。明海は年中笑っていますけど」 『市来が、笑うしかない事をするからだろ!』  明海がやってきたので、猫缶を開けておいた。すると、明海は激辛の俺の鍋を舐めていた。 「明海、水はいる?辛いでしょ?」 『おいしい!この痺れる味は何だ?』  明海は激辛が好みであったらしい。 「皿に取っておくね」
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