第七章 眠る猫、狂う猫 二

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 裏切りというのが、自分勝手な想像から外れただけという場合もある。でも、心から信じていた人を裏切りで失った場合の、心の隙間は大きい。 「まあ、女性が持ち主の場合は、俺と一ノ瀬さんが、ゆっくりと、回収してくるよ」  時任が、ゆっくりを強調していた。 「老人には、広井と玉川がいいでしょう。無駄にパワーがあって、しかも肉体労働が得意で、憎めない。私は、普通の人を訪ねてみますよ」  桜本が、広井と玉川に指示を出していた。 「私と寒河江君で、情報と金銭をサポートします」  甲斐は織田の所に行ったままであった。俺が高原を見ると、高原は寒河江の端末を見て考え込んでいた。 「高原さん、どうしました?」 「うん……この写真がはっきりしないけど、どうも知り合いのような気がして……」  どの写真なのかと確認してみると、田中の写真であった。 「寒河江、この田中の過去情報はある?」 「ええと、あるよ」  寒河江が田中のプロフィールを見せてくれた。 「婿養子か……旧姓、鈴木なのか……それに勤めていた会社と時期を見ると、もしかして……同棲した後輩かな?」 「え!???」  もしかして、高原と一か月同棲していた後輩なのか。でも、俺も田中の話しを聞いていて、どこかで聞いたような話しだとは思っていた。 「では、高原さんが田中に近づくと、警告ですか?」 「そうかもね……」  こうなってくると、高原が死んだ原因に、田中が関わっているような気もしてくる。  高原はトラブルが発生し、早朝に工場を開けて貰い品物を受け取ると、代替品を持って客先に行った。そして、納品の後にトイレを借りると言って出てゆき、そのまま行方不明になった。  品物を受け取ったのが朝の四時で、納品は七時であった。どこかで仮眠をしてから、会社に戻ると言っていたという。 「ぼんやりとだけど、思い出してくる。俺には妻と子供がいた……」  他のメンバーは、家族の事を憶えていた。でも、高原は家族の事を思い出せない。そこも、鍵のような気がしている。 「明日、田中を訪ねてみます。兄さん、人形になってください」 「え?俺、又、人形」  人形になると結構不便なのだが、中々、分かって貰えない。 「明海さんも同行をお願いします。兄さんがどこかに行かないように、見張りをお願いします」 『だよね……このバカ、野放しにすると危険だからな。でも、市来の面倒をみるのは疲れる……』
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