第七章 眠る猫、狂う猫 二

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 明海がウンザリとした表情をしてから、眠っていた。 「俺の扱いが、だんだんと酷くなっていないか?」  死保に来たばかりの頃は、もう少し優しく扱われていたような気がする。 「普段の行いでしょう……」 『バカばかりするからだろ』  即答で、新悟と明海が返答していた。 「駐車場は確保しましたけど、拠点を五人町に変えましょう。ここも使用してもいいですよ。電車が便利の場合もありますからね」  五人町ならば、各自の部屋があるので、長期滞在には向いている。 「兄さん。明日は車で移動しましょう……帰りは、五人町で、途中で食糧を買い込みましょうね」 「分かった」  新悟はマメなので、時間割とルートを作成していた。でも、俺は新悟の予定を守った試しがない。 「俺も車に乗せてね。警告が出たら、車から降りないからさ」  高原が頭を押さえていた。どうも、高原は頭痛が酷いらしい。 「はい、高原さん。薬を飲みますか?」 「……そうする」  新悟が高原をベッドに連れて行ったので、俺は寒河江の横に行くと、高原のプロフィールを探って貰った。 「営業ですね」  高原は、普通に小学校、中学、高校と進み、地方だが国立大学に進んだ。そして就職し、営業になる。 「やはり、結婚しているね……」  高原には、妻と子供がいた。しかし、子供の一人が行方不明になっていた。 「行方不明?」  高原は失踪したという事になっていて、死亡とはなっていない。高原は地方に納品していて、付近には交通手段がなく、乗ってきた車がそのままあったので、事件か事故に巻き込まれたのではないのかと捜査もされている。  そしてその後、子供が学校から帰らず行方不明になった。 「小学校三年生の息子で、家の十メートル手前まで友達と一緒だった。川を渡ったら自宅であったので、川に落ちたとされている」  残された母と娘は、引っ越しして今は別の場所に住んでいた。 「実家近くに引っ越しか……」  高原は死保に来ているので、死ねないという強い思いがあったはずだ。 「高原さんの納品先というのにも、行ってみたいね……」  高原の息子も見つけたい。 「兄さん、今日は寝ましょう」  寝ると言っても、橘保険事務所は人で溢れていた。とても眠る場所など無いだろうと思っていると、新悟がキッチンを片付けて布団を敷いていた。 「キッチンか……」 「どうせ起きたら料理なのですから、丁度いいでしょう」
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