第八章 眠る猫、狂う猫 三

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 ゴマ団子に、エビマヨ、エビチリ、花巻蒸しパンに、ご飯も用意しておく。他に、回鍋肉と八宝菜も作っておいた。 「まあ、いいでしょう……出発しますので、人形サイズになってくれませんか?」  そこで、人形サイズになったのだが、考えてみると、せっかく作ったのに食事ができない。 「新悟……食事ができないよ。このサイズだと、果物しか食べない」 「はい、バナナ。一本あれば、一日、持ちますね」  まるごとバナナを渡さないで欲しい。バナナを担いでいると、新悟が笑っていた。 「はい。切ったものを用意してありますよ」  新悟が、タッパーに蜜柑やバナナ、イチゴなどを細かく切ったものを用意していた。 「ありがとう」  醤油入れのようなものに、オレンジジュースと水も入れてあった。でも、形が魚なので、不味く感じる。 「新悟、この魚の形は嫌だな……」 「たまたま、それしか売っていなかったのですよ……」  新悟が籠にタオルを置くと、俺の食料と水も入れていた。 「車の中は出ていてもいいですけど、基本、籠の中でお願いします」 「はいはい」  よく新悟と一緒に出掛けたものだ。二人で出かける時は、弁当など作らず、その場の雰囲気で定食屋や、レストランに入って食事をしていた。 「高原さん、出発しますよ」 「……はい」  高原は、痛み止めを飲んでいるが、頭痛が治まらないらしい。 「甲斐さんに診て貰ったほうがいいかな……」 「そうですね。甲斐さんは、医者ですからね……」  車に乗り込むと、高原は後部座席でシートを倒して眠っていた。 「……ごめん。どうにも痛くて」 「構いませんよ。明海君、兄さん、出発します」  新悟がドリンクホルダーに俺を入れてくれたので、カーナビを確認すると、ラジオをセットした。交通情報を聞いていると、新悟が俺にデコピンしてから走りだしていた。 「田中は、人形の製造元の俺に会いたがっているのですよ。寒河江さんの情報操作のお陰ですね」  新悟は丁寧な運転をするが、俺にとっては結構怖い。どこが怖いのかと言えば、頻繁にブレーキを踏むせいかもしれない。 「新悟、俺が運転しようか?」 「大丈夫ですよ。この車に慣れていないせいですよ」  でも、後部座席を見ると、体調の悪い高原が、揺られて顔を真っ青にさせていた。 「……安全運転で、頑張ります……」  静かに走っていると、声も小声になってしまう。
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