第八章 眠る猫、狂う猫 三

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「田中は、自宅付近では会えないそうです。そこで、指定された店に行きます」  指定された店は、個室のあるしゃぶしゃぶの専門店であった。でも、それでは飲食店なので、明海を連れて入れない。 「明海君と兄さんは、鞄に入って貰います」  そんなに大きな鞄を持っていたら、変に思われるのではないのか。すると、リュックを用意されていた。リュックならば、多少大きくても、バッグ程は目立たないらしい。 「あ、死保から人形の魂の見解がきていますね」  新悟は運転中なので、俺が内容を読み上げてみた。 「死保は複数の人形の検証により、人形に存在していたのは澱みであり、魂ではないと判断する。よって、人形には成仏はない。しかし、今回、人形の回収を行い、更に深い検証を行う」  人形には人造の魂は無かったが、中に澱みのようなものが詰まっていたらしい。その澱みは、人間の精神に影響を及ぼすので、放置もできないという。 「人造で魂は出来ないのか……」  でも、死保でも人造の魂の可能性を検討したのだろう。 「死保は人造の魂が、いずれ出来るのではないのかと、調査を続けているようですよ」  人は、人型の完全体を人造で作り出した時に、滅びるのかもしれない。魂はきっと、死なないボディーに憧れてしまうだろう。  「まあ、まだ人造の魂については、可能性があるという段階だよね」  人造の魂が出来るかで、新悟と議論していると、店に到着していた。俺と明海はリュックに入ると、隙間から外を伺う。  新悟が店内に入ると、予約されていた個室に通されていた。店はかなり高級そうで、まるで料亭であった。個室もそれなりに広く、掘り炬燵の形式になっていた。 「田中様は少し遅れるそうですので、先に料理をお出ししてくださいと頼まれております」  出てきた料理は刺身で、車で来ていると告げると、烏龍茶が出てきた。  刺身の次に魚の唐揚げ、ローストビーフの握り寿司などが出てきて、俺と明海と新悟まで、満腹になってしまった。そもそも、俺は小型しているので、食が細いのだ。 「……遅いですね」  約束の時間を、一時間ほど経過しても田中はやって来なかった。すると、店員が再びやってきて、追加の注文はないかと聞いてきた。 「田中様が急遽来られなくなったということで、ここで寛いで帰って欲しいとのことです。支払いは田中様が済ませていますので、ごゆっくり」
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