第八章 眠る猫、狂う猫 三

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 どうも、店員の素振りがおかしいので、新悟が事情を聞いてみると、若い店員は顔を真っ赤にして照れていた。新悟は二枚目なので、話し掛けられて照れているのだろう。客の事情は話せないのだろうが、やはり新悟と話したそうで、もぞもぞとしている。 「田中様は店にお越しになられて、かなり慌てた様子で、急ぎの用事が出来たとお金を置いてゆきました」  急ぎならば、店まで来なくても良かったのではないのか。わざわざ店まで来て、帰ったということか。 「新悟……まずい」 「はい。兄さん」  新悟が店を出ようとすると、店員が土産まで持たせてくれた。これも、田中が手配していたらしい。  新悟が車に走り寄ると、後部座席を覗きこむ。すると、寝ていた筈の高原がいなくなっていた。新悟が慌てて高原に電話を掛けてみると、携帯電話は車内で鳴っていた。 「落ちているのではなく、ここに捨てられている?」 「新悟、警告は出ていないか?」  新悟は首を振っていた。メンバーに警告が出ると、他の者にも影響が出る。でも、俺は小型化していて、反応が鈍いようだ。 「新悟、トイレに連れて行って。元の姿に戻る」 「はい。兄さん」     
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