第八章 眠る猫、狂う猫 三

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 防犯カメラを追ってゆくと、途中で追えなくなるらしい。その区間には、店が少ないがラブホがあった。 「どのホテルなのか調べてみてよ。行ってみる」 『分かった』  警告が点滅を止めて真っ赤になった場合は、消滅する危険性がある。残された時間がどれだけあるのか分からないが、兎に角、急ぐしか高原を助ける道はない。  寒河江が探している間も、じっとしていられないので、俺も田中の消えた区間の地図を見てみた。民家から少し離れた場所で、その先には高速道路などもあり、ラブホが密集していた。これでは、寒河江も特定するのに時間がかかってしまうだろう。  ラブホには予約システムがあったので、消えた時間に予約をしている客を探す方が早いかもしれない。 「寒河江、その時間にチェックインした客はいた?」 『五組あった……』  それも別々のラブホであるので、特定しているらしい。  公園の駐車場で、車の横に座って、携帯電話を眺めてしまった。すると、散歩している犬が寄ってきて、更に襲い掛かってきた。 「タマミちゃん。ダメでしょう。ごめんなさい」  飼い主は、少し太った優しそうな女性であった。俺の母親の年頃で、じっと俺を見ていた。 「あら、人形みたいに綺麗な子ね」  タマミが舐めた俺の顔を、女性は遠慮なくハンカチで拭いていた。  俺はまさか、まだ人形のままであっただろうか。立ち上がって、車の窓で姿を確認してしまった。 「新悟……俺、人に戻っているよね?」  でも、心配で小声で新悟に確認すると、新悟が笑っていた。 「……大丈夫ですよ。元々、兄さんは人間離れしていて……人形っぽいのですよ」  立ち上がって尻の埃を払うと、タマミが尻を舐めようとしていた。 「タマミちゃん、ダメでしょう。どうしたのかしら、貴方を異常に気に入っているみたいね……」  俺は、食べ物の匂いでもしているのだろうか。自分の匂いを確認していると、タマミも俺を嗅いでいた。 「……すいません。少し、タマミちゃんと散歩してきます。新悟を残してゆきますので、必ず帰ってきます」 「え?いいの?じゃあ、私はこの二枚目のお兄さんと、お茶してきますね」  女性の方は、新悟を気に入ったらしい。  俺はタマミに、高原の携帯電話の匂いを記憶させると、散歩を始めた。 「明海、通訳してよ」  俺が明海を抱えると、明海が怪訝そうな顔をしていた。
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