第八章 眠る猫、狂う猫 三

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『タマミは犬だろう?俺は猫だよ。それにな、動物は明確な言語体系を持っていない』  しかし、タマミが吠えると、明海は通訳をしてくれた。 「ワンワンワン」 『市来は、しゃぶしゃぶ料理の匂いがしていた。その近所に自分は住んでいる。すごく食べたい』  タマミは、俺を食べたかったらしい。タマミはしゃぶしゃぶ料理店の前を、日々、散歩していて、匂いを憶えていたらしい。 「俺は、高原さんという人を探している」 「ワンワンワンワワワン」  タマミは、猟犬の一種で、匂いを辿るのは得意らしい。 『見つけたら、ご褒美が欲しい』  ご褒美というのは、食べ物がいいのだろうか。すると、思いっ切り走りたいと言われてしまった。散歩している女性に合わせて動いているので、走る事に飢えているらしい。 「分かった。ドッグランがあったので、走らせる」 「ワンワンン」  明海の通訳より先に、タマミが吠えていた。タマミは、人の言葉を理解しているようだ。 『今走ればいい』  「分かった。走るよ」  俺は、リールを持つと走りだす。タマミは、尻尾を振りながら、俺の横を走りだした。 「わんわわあん」  契約成立となったらしい。タマミは真剣に匂いを追ってくれて、ラブホ群に近寄っていた。そして、一際、吠えた一件があった。 「ここか……」  このまま乗り込みたいが、犬と猫連れでは、入れないような気がする。 「急いで帰って、新悟と来るか……」 『そんな時間はないでしょ!寒河江に情報操作して貰って乗り込むぞ!』  しかし、不正行為をすると、明海も寒河江も消滅してしまう。 「新悟!」  叫んでも無駄なので、携帯電話で呼ぼうとすると、車が来て前に停止した。 「兄さん。居場所が分かったのですね。タマミさんを、女性にお返ししてください」  新悟は女性も乗せていて、ケーキを持たせていた。 「簡単に説明しておきました。友人が攫われて、ラブホに連れ込まれて追っていたまでは説明しています」   女性は車を降りると頷いていた。新悟の誠実さが幸いして、信じて貰えたようだ。 「気をつけて、行ってきてね。ケンカはダメよ」  女性は手を振って見送ってくれた。 「寒河江、隣の部屋をナビして。そして、高原さんの部屋に入れるようにして」 『分かったよ』
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