3人が本棚に入れています
本棚に追加
ドンドンと山の頂上に近づくにつれて、雲が増えてきた。風も強くなって、羽ばたく翼が重くなってきた。白い霧が渦巻くようにホシガラスの身体を包み始めた。それでもがんばっっての天辺に向かって飛ぼうとしたときに、いきなり強い風が吹きつけて、あっという間にホシガラスはバランスを崩してくるくると落ちていった。
ああ、せっかく白い山まで来たのに・・・
叩きつけられて気を失ったホシガラスの身体が斜面を転がっていく。ホシガラスは石の転がっている隙間でようやく止まった。その後、周りは霧に覆われて回りは何も見えなくなっていった。どこかでピルルルピーピーという笛のような鳥の声のような音が聞えるだけ。
どれだけ時間が経ったか、ホシガラスの身体はすっかり冷たくなっていた。そして雪が降り出した。雪と風が容赦なく吹き付けてホシガラスの身体に降り積もっていった。
しぱらくすると地面が青白く光りだし、バリバリバリバリというものすごい音と、ホシガラスの体中を何か得体の知れない力が通り抜けていった。まばゆい光の鋭い線が地面と空から立ち上がっていく。
雷だった。
山の雷は、地面をはい、岩におち、空に登っていく。人が見たら「龍」にみえることだろう。それも一度にいくつもの雷が同時に空と地面をつないでいく。「カミナリ」というより「イカズチ」という名前のほうがふさわしい。まさに、天から巨大な力が降ってくるような、生きものは誰も抗えず、ただ身を潜めているしかない。
そのうちに段々と雷は遠ざかり、遠くで雲が時折ぱっと明るくなるのが見える程度になっていった。
ホシガラスはまだ生きていたが、身体が痛くてとても動けるような気がしなかった。
このままここで死ぬのだろうか。
そんな思いがよぎった。
黒い身体のままで、里で平穏に暮らしていればよかったのだろうか。
こんなところにきたのは間違っていたのだろうか。
少しでも白い羽を欲しがったせいだろうか。
色んな思いが頭の中を駆け巡った。
何かの気配を感じてうっすらと目を明けると、白い羽に包まれた足が見えた。
「お前、こんな所でなにしている。」
目を開けると白い鳥がそこにいた。
最初のコメントを投稿しよう!