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「少なくともこの話を読んだ俺は、絶対にスーツケースは改造しない」
そう的外れな答えを返した俺に、みつはクスクス笑いながらもそうねと笑った。
あれから、休憩を何度か挟みつつ作業を進めて行き夕方ごろに何もなかったみつの部屋は、すっかり部屋らしくなったのだ。
「ってか、このスーツケースかなり使い込んでるよな?」
「えぇ、だってこのスーツケース私が小学生の時に買った物だもの」
聞けば、どうやらこの年季の入ったスーツケースは、みつが引っ越してすぐになけなしのお金を叩いて購入した物なのだそうだ。
「だって、これに全部入れて隠しておかないと、教科書もだけど大事な物は全部捨てられちゃうから………」
そうポツポツ語るみつ………。
そうだ、みつの母親と妹はみつが悲しむ顔を見るのが好きだったんだ………。
だからこそ、みつは自衛としてスーツケースを購入し、あの家で一人ずっとずっと大事な物を守り続けたんだ………。
「みつの大切な物、守ってくれてありがとな」
そう呟いて、そっと年季の入ったスーツケースを撫でれば、俺の後ろにいたみつがそっと俺に背を向けたのだけれど、その身体は小さく震えていたのだった………。
一つの物語が終わるたびに、日常は進む。
彼女の怪談は、どことなく味を感じた………。
4食目、完食。
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