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■エピローグ・前
日本は、かつて世界最大のウサギの国だった。
*
昭和五十年代──
広い家畜舎の中は閑散としていた。
家畜舎には、膨大な量の空のケージ。ところどころに錆び付きを見せるケージは、丁寧に角と角とを突き合わせて縦に、横に積み重ねられている。きれいに整理されたケージは家畜舎のところどころにさながらコインロッカーのような壁を作っていた。
ケージの中にはほんのつい最近まで主となる動物が居て、丁寧に世話をされていたのだろう。
抜けるように澄んだ秋空の下にあって、家畜舎の中は明かりも無く仄暗い。
そんな仄暗い家畜舎の中で動く影が一つあった。
男が腰を入れて床をモップ掛けしている。それまで、確かにその場に居た生き物の気配を掻き消すかのように、一心不乱に、力強くモップを床にこすりつけている。
「あの……ごめんください」
家畜舎の床を掃除する男に声を掛ける者が居た。
男が視線をやった家畜舎の入り口には人が立っている。逆光で表情を読み取ることはできない。しかし、男は影の輪郭からその人物を初老の女性だと認めた。
男は手にしているモップを杖をつくように止め、
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