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「……こればかりはわからない。ただ、私個人としてはそれができるだけ先、十年、二十年以上先であればと望む。しかし、目下の問題として我が陸軍が防衛すべき満州国に物資は必要だ。知っての通り満州国はソビエト連邦と国境を接している。以上、この『細い毛の中は空洞になっていて保温性が高い』というアンゴラウサギの毛は満州国の防衛に大きく寄与すること間違いがない。畢竟、齋藤さん。その毛は今は売れなくとも近く黄金に化けることになるだろう。大切にすると良い」
世界経済、そして国土防衛に絡めた石原の言は理にかなっている。憲三は衝撃を受けた。
「ありがとう、ございます。ありがとうございます、石原さん。もしあなたの言う通りなら、これで、貧しい農村を救ってやれるかもしれません」
憲三は、深く、深く。何度も腰を折って頭を下げた。長く追い求め、何度も失敗を繰り返した憲三の「救農」の理想。それが、今ようやく結実の時を迎えようとしている。そう思うと憲三は胸が熱くなり、思わず顔をぐちゃぐちゃにした。
「あなたは先ほども貧しい農家を助けると言っていた」
「ええ、それが俺の夢です」
「そうか。人生を賭けるに値する、立派な夢だ」
石原は農家の生まれではないが、憲三の真剣な思いに深く胸を打たれる思いだった。
「よろしければ、うちのウサギを何羽かお持ちください。石原さんのような理解ある方が養兎を広めてくれるのであれば、心強いです」
憲三は鞄を置いて、代わりに石原の足元でくつろいでいた個体を優しく抱きよせて持ち上げた。
石原は顔の近くまで持ち上げられたウサギの眉間にそっと手をあて、
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