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石原は少し自嘲気味に笑みを浮かべて憲三とチセ、そしてたくさんのウサギが居るアンゴラ兎興農社を後にした。
石原はスイスで行われた国際連盟ジュネーブ会議に随伴した翌年八月に仙台の歩兵第四連隊の連隊長となる。
チセと憲三に語ったように、彼は仙台の地で篤農家を募り、連隊の兵に対して農業指導を執り行うことで軍と農村の溝を埋めることに腐心した。そして……
「脱走兵であります!」
歩兵第四連隊隊長、石原莞爾にそう注進する者が居た。
「……またか。いや、迷惑をかけて本当に申し訳ない。厳しく叱りつけておく故、ご堪忍いただきたい」
訪ねてきたのは、近所の農家の男である。
ここのところ、歩兵第四連隊では脱走兵が相次いでいる。脱走兵は近所の者に迷惑をかけている。脱走兵が出現するたびに、脱走兵を発見した近所の者が石原に脱走兵が出た旨を訴えに来るのだ。
石原は脱走兵が出した被害を農家の男に尋ね、自分の財布から被害の弁償金を男に渡した。
「いやあ、大した被害じゃねえですから」
男が固辞しようとするも、石原は
「いや、あなた方にも暮らしがある。我々のせいであなた方の暮らしを苦しくしてしまうわけにはいかないからな」
いつもこのように話して弁償金を無理にでも受け取らせるのだった。
「脱走兵にも困ったものですね」
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