■第二章 帝国陸軍のウサギ

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 そう言うのは石原の部下だった。 「管理が行き届いていないのだ。見せしめとして今回脱走した者は懲罰房に閉じ込めておくように」 「また、丸刈りにしますか?」 「見せしめなのだから、当然だ」 「承知しました」  捕まった脱走兵は懲罰房に放り込まれ、そして体を押さえつけられ無理やり丸刈りにされてしまった。 「丸刈り、完了いたしました!」  石原の部下はそう報告すると、石原に向けて一羽のウサギを掲げた。そのウサギは、全身の毛を刈り取られ、みっともない丸刈りの姿を石原の目の前に晒している。 「そうか、ならば罰を行ったという証明として、丸刈りにした毛は先の農家の男の元に届けておくこととしよう……。その脱走兵は、そうだな、丸一日ほど、懲罰房に入れておくように」  石原莞爾という男は、軍人にもかかわらずまだ黎明期にアンゴラウサギの有用性に気が付き、その価値を認めた稀有な人間だった。  石原は農業指導の一環として、連隊の馬小屋でアンゴラウサギの飼育を開始。馬小屋を流用しての飼育であったため、近所ではたびたび脱走したウサギが見られたという。     
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