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■第三章 アンゴラ兎興農社、解散
*一
帝国陸軍中佐 石原莞爾に「近く需要が高まり、成功する」と太鼓判を押された齋藤憲三のアンゴラ兎興農社の採毛養兎事業は軌道に乗る……
かのように思われたがそんなことは全くなかった。
「憲三さん」
「憲三さん」
チセが何度呼びかけても、憲三は返事をしない。
「憲三さん……。また、なんだね」
憲三は黙り込んでいる。
「また、失敗したんだね」
憲三はチセから目を逸らした。チセはその憲三の様子を見て確信した。また、彼は失敗したのだと。
「……失敗、ではなく……思ったようには、いかなかったということであって」
人はそれを、失敗と呼ぶ。
憲三は石原との出会いの日から、以前にも増してより一層営業活動に精を出すようになった。されど、相変わらずこの調子であった。
需要ができるのを待つのでは生活が立ちいかない。需要は、「作る」ことができる。憲三は今それに挑戦し……そして、失敗を続けている。
アンゴラ兎興農社の幹部たち……幸男とチセは、社長の憲三を糾弾した。
「やっぱ、大企業は敷居がたげえと。どうせ今日も門前払いだべな」
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