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憲三は肩身狭く、こじんまりと正座した足を崩すこともなく、申し訳なさそうにそう報告した。
幸男はため息を漏らし、チセはやっぱりね、と言いたいのを堪えて、
「なんで、ダメだったの?」
そう訊ねた。
「そこだ。今回話ができた担当者は話がわかる人だったんだ」
「うん、それで?」
「ちゃんと、毛織物の原材料が足りなくなるかもしれない、という問題意識も持っていたんだ。いや、さすがは天下の大企業だ」
「うん」
「俺が持っていったウサギの毛も、ちゃんと吟味して、『これは使えそうですね』とまで言ってくれた」
「うん、じゃあ、成功した?」
「……」
憲三は黙ってしまった。
「詳しく」
「ちゃんと、話も聞いてくれたし、ウサギの毛にも一定の興味を持ってくれたようだった」
「今、それは聞いてない。なんでダメだったの?」
「っ、あー……。うちの、アンゴラ兎興農社の、規模が小さすぎるとバレたら『うちとはとても取引できませんね』って、な」
仕方のないことだった。
アンゴラ兎興農社で飼育するアンゴラウサギはわずか二百羽にすぎない。
ウサギの毛に興味を持ったからとて、ほんのわずかばかりのウサギの毛を納入されても利益が見込める事業に育てることは不可能だ。
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