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大企業と交渉するのに、憲三のアンゴラ兎興農社はさながらこの時代の世界情勢の中の日本のように、あまりにちっぽけだった。
「小さな工場と交渉して、一歩ずつ、歩いて行ぐしかねえべな」
心優しい幸男は憲三を励ますようにそう言った。
「そうだね。少しずつ、実績を積んで行って、ウサギを増やして行こう?」
チセもそう言って憲三の顔を覗い見る。
……が、当の憲三は、幸男の顔を見るでもなく、チセの顔を見るでもなく、なぜか遠くを見るような目で宙に視線を泳がせていた。
「……いや、石原さんならこう言うだろう。このアンゴラ兎興農社が大企業と伍する力を持つべし、とな」
「……? いや、だがら、一歩ずつ、力を付けでいぐってこどを話しでんだが」
憲三は幸男の声が聞こえていないかのか、うわごとのように独り言を続けた。
「んん……ああ、いや、失敗した原因はわかっている。つまり、失敗した原因から成功する原因に思考を歩み進めると……そうか、そうするしかないか……」
ブツブツと話す憲三を、チセはいささか気味悪く思った。
「憲三さん?」
チセの声に反応したのか、しなかったのか、憲三は急に勢いよく立ち上がった。
「幸男、チセ子。俺は決めたぞ」
「何を?」
「俺は、このアンゴラ兎興農社を、解散する!」
「えっ……ええっ? なんでっ?」
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