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「忙しいみたいで、面談に割いてくれるのはたったの三分間だけ、だけどな」
鐘淵紡績社長と出身校の慶應義塾を同じとする鷲沢と、更に面識のある人物の伝手を辿って、ようやくつかみ取り、許された三分だった。「それでも、直接話を聞いてくれるのなら、芽はある」
憲三は鼻息を荒くした。
「うまく行けば、一発逆転だね」
チセは憲三の面談がうまく行くことを願いつつも、恐らく失敗すると予測を立てて励ますように言った。
「ああ、鬼が出るか、蛇が出るか。何が出てきても、この面談は成功させなきゃならん」
憲三は気を引き締めるように顔をこわばらせたが、
「タヌキが出てくるかもね」
というチセのその言葉にすぐ表情を緩めた。
「それなら願ってもない。俺は動物好きだからな。相手がタヌキなら面談の成功は間違いなしだ」
「そうだね、がんばって」
憲三はチセにうなずいて返し、手を振って駅へと向かった。勝算は、決して零ではない。
果たして、鐘淵紡績を訪れた憲三の前に姿を現したのはタヌキだった。
もちろん、動物の狸が鐘淵紡績の社長室に居たというわけではない。
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