■第三章 アンゴラ兎興農社、解散

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「忙しいみたいで、面談に割いてくれるのはたったの三分間だけ、だけどな」  鐘淵紡績社長と出身校の慶應義塾を同じとする鷲沢と、更に面識のある人物の伝手を辿って、ようやくつかみ取り、許された三分だった。「それでも、直接話を聞いてくれるのなら、芽はある」  憲三は鼻息を荒くした。 「うまく行けば、一発逆転だね」  チセは憲三の面談がうまく行くことを願いつつも、恐らく失敗すると予測を立てて励ますように言った。 「ああ、鬼が出るか、蛇が出るか。何が出てきても、この面談は成功させなきゃならん」  憲三は気を引き締めるように顔をこわばらせたが、 「タヌキが出てくるかもね」  というチセのその言葉にすぐ表情を緩めた。 「それなら願ってもない。俺は動物好きだからな。相手がタヌキなら面談の成功は間違いなしだ」 「そうだね、がんばって」  憲三はチセにうなずいて返し、手を振って駅へと向かった。勝算は、決して零ではない。  果たして、鐘淵紡績を訪れた憲三の前に姿を現したのはタヌキだった。  もちろん、動物の狸が鐘淵紡績の社長室に居たというわけではない。     
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