■第三章 アンゴラ兎興農社、解散

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*三 ……………… ………… …… 「……ええと、その、目下、兎毛を増産できるよう繁殖を進めているところです」  憲三は、延々と喋り続けていた……いや、喋らされ続けていた。 「ふむ……しかし、それではカネボウと取引するにはまるで足りないな。もっと早くウサギの毛を増産する方法は?」  約束の三分。そんなはした時間はもう一時間以上も前に過ぎ去っていた。  にもかかわらず。憲三は話を続けている。  面談は、津田の意向で延長されていたのだ。  憲三が話を切り上げる隙もなく、津田は憲三に質問を矢継ぎ早にぶつけていくのだ。 「種兎を輸入できれば……より効率的に繁殖が可能なのですが、何分、先立つものが……」 「なるほど、では十分な数を輸入するのにいくらかかるのかね?」  津田の前に用意された灰皿には、既に火が消された煙草が一本置いてあるだけだった。津田は息を吸うのさえ惜しいと見えるほどに、憲三に質問をぶつけているのだ。 「二……いえ、三万円ほどはかかるでしょうか。国内で繁殖に取り組んでいる牧場はせいぜい志保井牧場くらいですから……イギリスから種兎を輸入しなくてはなりません」     
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