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チセは立ち止まってしまった男に数歩、ゆっくりと歩み寄ってケージをのぞきこんだ。
「未来のことはわからないわ。でも……」
そこには呼吸のリズムでふくらんではしぼむウサギの姿が確かに存在する。「そうなってしまったとしたら、私はとても、悲しいわ」
「そうですね。悲しくて、そして寂しいことです」
その男の言葉はどこか達観染みていた。
チセは思う。
私はこの愛らしいウサギのことを忘れない。記憶に留めておきたい。そう思う。たとえ、世界から、現実から、歴史から、人々の記憶から、このウサギが消えてしまったとしても。
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