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『うん、まぁ、これでいいかな。この線ですすめてくれ』  部下に研究計画書を返しながら水谷博士が頷くと、ロナルドはほっとした様子で部屋から出て行った。  水谷勉は、ある日本企業が作ったドイツの研究所で、新エネルギーを研究している。  本棚には物理学や熱力学の本がびっしりと並び、机の上のパソコン画面には、学会で発表された同分野の研究論文が英語で映し出されていた。 「いつ見ても、熱力学の方程式の羅列は美しい」  水谷博士は満足げに溜息をつくと、部下たちの研究報告書に目を戻し、赤ペンで改善点や、課題の追及の余地などを書き込んでいく。  ドアがノックされ、秘書兼事務員の理恵子・アーベルが顔を出した。 「博士、今日は奥様とお子様たちは日本からいらっしゃるのでしたね。空港へ迎えに行かれる時間を忘れないでください」  理恵子は学生時代にドイツに留学をして、その時に付き合ったドイツ人と結婚をした。 それ以来、20年間ドイツに住んでいるので、流暢なドイツ語に比べ、使わない日本語の助詞「て・に・を・は」がおかしくなるのはそのためだ。     
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