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あれから1週間、妻は一度も電話に出なかった。娘や息子にかけても誰も返事をしてくれない。
さすがの博士も不安でいっぱいになり、胃が痛くてここ数日食べ物もろくに喉を通らなくなった。
会議のために日本に向かう飛行機に乗り、空港に降り立った博士は、荷物を受け取るレーンに並んだ。
果たして妻は家にいるだろうか?
気持ちだけが急くが、飛行機内の荷物を運んでいる最中なのだろう、ターンテーブルは止まったままだ。
ようやくターンテーブルが回り出し、出口から吐き出されるように荷物が現れた。
回り出したスーツケースに目を凝らしても、博士のものはまだ見当たらない。
一度失くした信頼を取り戻すには、どうすればいいだろう?
答えを求めて視線をさまよわせるが、浮かんでは消える考えは、目の前を通り過ぎるスーツケースと一緒に流れていく。
一緒に住んでいれば謝ることもできるし、妻が気に入る何かをして名誉挽回ができるのに、離れて暮らしている時の喧嘩は、するもんじゃないと心から悔やんだ。
過ぎていったスーツケースを、一人の男性が隣に並んだ女性のために取ってやる。
それを見るともなしに見ていた博士は、ふと、今まで自分が妻の喜ぶことを何かしてやっただろうかと考えた。
何も思いつかず、目の前が暗くなる。
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