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 ようやく見つけた自分のスーツケースを持ち上げて床に下ろし、出口へと向かう。  さっきまであんなに急いていたのに、ふと誰もいない家を想像して、急に足取りが重くなった。  待っている人のいない家になんか帰りたくない。  土産で重くなったスーツケースを押しながら、博士を足早に追い抜いて行った人たちが、出口でお帰りという歓声に迎えられるのが聞こえた。  博士は俯いてその幸せそうな一行の横を通りすぎる。 「あなた。こっちよ!」  最初は聞き違いかと思った。安祐美の声がするなんて、あまりにも思い詰めたから空耳が聞こえたんだとそのまま進む。 「お父さん、こっちだってば」  里奈と祐樹の声が重なった瞬間、博士はスーツケースを放り出して、声の方へ走り出していた。 「ただいま」  博士は自分の家族をしっかりと腕に抱きしめた。 「お父さん、反省した?」  腕の中の里奈が、いたずらっ子のように眉をあげて博士の顔を窺う。 「うん、ごめん。反省した」 「お父さんが素直だと、逆に気持ち悪いね」  祐樹の言葉に湿っぽさが飛んで、みんなが笑った。  腕を解いた博士は、安祐美に向き直り悪かったと心から謝った。 「あなた、あの本を最後まで読んだ?」 「途中まで読んだら、あまりにも自分に腹が立って読めなくなった。それくらいお前の思いやりが伝わる本だった。ありがとう安祐美」     
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