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何度も小さく頷いた安祐美の目が赤くなっていた。
それを誤魔化すようにくるりと目を回した安祐美が、にっと唇の両端をあげて博士に告げる。
「最後まで読んでいたら、きっとありがとうなんて言えないわよ」
「えっ?どういうことだ?ハッピーエンドじゃないのか?」
急に狼狽えだした父親の様子を見て、安祐美と子供たちが噴き出した。
目じりに浮かんだ涙を拭いながら、安祐美がこつんと夫の肩に頭を載せる。
「あのね、小説の中の博士は、偉大な発明をしてノーベル賞を取るの。そして長年影から黙って夫を支えた妻は、夫の受賞式で幸せの涙をほろりと流すのよ。私もそこへ連れていってね。そしたら電話でのこと許してあげる」
博士はその内容に驚いて絶句したが、聞いているうちに、くっくっと笑い出したのが、やがて止まらなくなり、それにつられて家族全員が大笑いした。
好奇な目を向けて通り過ぎる人たちも、博士には気にならなかった。
こんなに笑ったのはどのくらいぶりだろうと愉快でしかたなかった。
「そんな思いもよらないラストが書けるなんて、ノーベル賞を取るのは安祐美かもしれないよ」
「だめ、私ではなく、あなたが何かしてくれなくっちゃ。普段我儘言わないけど、最後までとっておいたお願いは高くつくのよ」
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