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「君のような素人に本だけで理解されてしまったら、自分達の存在が必要なくなってしまうよ。それに、新しいことは秘密裏に進められていて表には出ないんだ。その本に書かれていることは、もうすでに研究されつくした古い事柄だから、読んでも仕方ないよ」  妻は溜息をついて本を閉じ、悲し気にじっとその本の表紙を見つめた。  自分は何か間違ったことを言ったのだろうか?  この分野を勉強もしたことない妻が読んでも、理解できるとは思わない。  仮に理解できたとしても、一般の教養とはかけ離れていて、役に立つことはないから読むだけ時間の無駄なのだ。  それよりも、妻が来てくれて、雑多な家事を引き受けてくれるだけで、研究に没頭できるから、妻の存在はありがたいし、家事以外の時間を妻自身の為に有効に使って欲しいのだ。  でも、博士は上手く伝える言葉の(すべ)を持たない。  研究はありのままの報告を必要とする。華美な装飾や、湾曲した説明は、誤解の元になるので必要ないし、仮につけた場合は、進まぬ研究やつまらない研究を隠すための覆いでしかない。  難しい言葉をパソコンで検索しながら、分厚い物理学の本を読まなくなった妻は、時間を持て余してしまったようだった。  この街の書店には、日本語で書かれた本はなく、英語の本も値が張るので、そう何冊も購入できない。     
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