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 では日本から新書を持って来ればいいかというと、1か月分の本にかかる高額な代金ばかりか、スーツケース内の本来なら衣類や日本食に割かれるスペースを大幅に食い、重量が問題になってしまう。  安祐美が考えたのは、読み捨てにできる中古の単行本を、大量に仕入れてもってくることだった。  ハニークイーンロマンスだとかその類の本は、一冊が小さく軽量で、深く考えなくても読めるので、暇つぶしにはちょうどいいらしい。  いい歳の母親がおとぎ話のような恋愛本を読むのに抵抗があったのか、安祐美は「このくらいの内容なら、私にも書けるかも」と茶化しながらも真剣に読み、時には涙を流すので、そんなに良い内容なのかと気になった博士は、試しに一冊本を手に取って、パラパラとめくってみた。  瞬間に眠りに誘われて内容が1ページも頭に入らず、妻がその何十冊という本を置いて日本に帰った時、本当に捨てて構わないのだろうかと途方にくれた。  研究書などを大切に取っておく博士は、内容がいかなるものでも、本を捨てることにためらいがある。 結局ドイツにいる日本人会のメンバーたちに持っていくことにした。    ドイツに限らず、海外で暮らす日本人は、困ったことや行事など、苦も楽も分かち合うのを名目に、日本人会なるものを結成している。     
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