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ドイツ赴任が4年目に、結婚も19年目になる春の季節に、日本から一冊の本が届いた。
ハードカバーの新書のタイトルは「見えない明日を乗り越えて」というもので、新人だろうか、「綾瀬ほのか」という博士の知らない著者だった。
本に添えられた妻の手紙には、いつもお仕事お疲れ様です。気持ちのこもった本です。読んでみてくださいと書いてあった。
日中、文献や方程式、研究書など、大量の文字と格闘している博士は、正直にいって自分から読みたい本以外、疲れた眼を更に酷使する気力が残っていなかった。
でも、せっかく妻が送ってきてくれたのだから、少しだけでも目を通そうとページをめくった。
そこには、恋人と離れても、相手を信じて愛をつらぬく女性の物語が書かれていた。
仕事一筋で恋人に優しい言葉もかけられず、思いやる行動さえも起こせない不器用な男は、博士を彷彿とさせた。
頭はよくないが一途に相手を思う明るい女性は、まるで妻の安祐美のようだった。
何だか自分たちのことを書かれているようで、気恥ずかしくなり、博士は途中で本を閉じた。
数日後、その日は一週間後に控えた日本の本社で行われる重役会議で、発表しなければならない研究報告をまとめることに、博士は追われていた。
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