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研究費を少しでも多く出してもらうため、研究成果を役員たちに認めてもらわなければならない。
そんな時に昼休みだから話せると思ったのか、安祐美から電話があり、本の感想を求められた。
博士は苛立ちを隠しながら、まだ本を読んでいないことを伝えた。
「…そっか」と電話口から聞こえた落胆したような声に、博士は感じなくてもいい罪悪感を覚えて、不愉快になった。
こっちは仕事に押されて疲れて果てているのに、こんな夢物語のような本を押しつけてくるなと気分がどんどん尖っていった。
「少しだけ読んだけど、君がいつも読む気楽な本に似ているね」
電話口でハッと息を飲む音が聞こえた。
言葉を発した先から、博士はしまったと思ったが、ロナルドが何かを発見したらしく、急いできてくれと呼んでいるので、フォローもできず、忙しいからと電話を切った。
夜10時に静まり返ったマンションに戻り、博士は崩れるようにソファ―に座った。
疲れた。とにかく疲れた。そのままぼーっと天井を見上げていたが、昼間の妻からの電話を思い出した。
一言も声を発したくないくらい疲れていたが、思わず妻に当たってしまったことが気になって、スマホで妻の番号を押す。
ところが、何度鳴らしても妻は出ない。
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