第一章 わたしピンクのサウスポー

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ゲイリー・US・ボンズのヒット曲「ニューオーリンズ」が、スタジアムに響き渡る。 マウンドのユウキ・フェアチャイルドは、ニューオーリンズ育ちの南部娘(サウザン・ベル)。アメリカで活躍していた頃から、登板と同時に観客から合唱が湧き起こるようになり、今では、この曲で彼女の登板を迎えるようになっていた。 「――あらためまして、皆さまに申し上げます」 後楽園・極東MLBの放送室。アナウンサーのクリストファー・新庄が、陽気な声で観客に話しかける。 「九回裏、フェアチャイルド監督が、娘のユウキをクローザー(押さえのリリーフ)として、送り込んで参りました。 防御率九〇パーセント、アメリカでは『ニューオーリンズの魔女』の異名を取ってきたフェアチャイルド。ノーアウト満塁の危機から、打者ふたりを三振に切って取り、完封まであとひとりです!」 鳴り物こそないが、メジャー特有のたぎるような熱気が、球場を包んでいる。 二死満塁、台北(タイペイ)パイレーツの攻撃。バッターは四番・王天光(ワンティングワン)。打率三割五分、「高雄(カオシュン)の長距離砲」と呼ばれるスラッガーだ。 五万の観衆が、ふたりの対決を、息を呑んで見守る。そして、
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