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きっぱりと、全が言い放った。
「国家の運命を決めるのは、軍事力や経済力のような、巨大な力だ。ひとりの投手の勝利が、国際関係に影響を与えるなどという迷信を、私は信じない」
口を開きかける烈花を遮りながら、全が続けた。
「――しかしながら、君のアドバイスが外れたことがないのも、事実だ。いいだろう、フェアチャイルド暗殺計画を続行するがいい」
「ありがとうごさいます」
「ただし、タイムリミットは、三連戦の終了までだ」
ぴしりとした口調で、全が言った。
「パルチサンズとエンジェルスのどちらが勝っても、《星雲三号》の発射実験は予定どおり決行する。
我われにとって、ロケット、即ち長距離ミサイルは、単なる兵器ではない。戦略であり、外交であり、国家そのものだ。分かるな?」
「承知しております」
全正勲が、ふと顔を上げた。庭園の柱のかげに、正装した侍従官が姿を見せている。
「どうやら、晩餐会の準備が終わったようだ。
今夜は、世界中から、友好国の使節が集まってきている。わが国のロケット発射実験を、世界が注目している証拠だ。
――いいかね、三連戦終了までに決着をつけ給え。それ以上は待てない」
「畏まりました。一命に代えましても」
満足の表情を浮かべて、全が庭を去る。黄昏の帳の中、ひとり佇む烈花の唇が、誰にも聞こえぬ声で囁いた。
「私が、閣下を導いて差し上げます。
――世界の覇権は、私たち吸血鬼(ヴァンパイア)の力によって、決まるのですから……」
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