第四章 カメレオン・アーミー!

28/28
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
きっぱりと、全が言い放った。 「国家の運命を決めるのは、軍事力や経済力のような、巨大な力だ。ひとりの投手の勝利が、国際関係に影響を与えるなどという迷信を、私は信じない」 口を開きかける烈花を遮りながら、全が続けた。 「――しかしながら、君のアドバイスが外れたことがないのも、事実だ。いいだろう、フェアチャイルド暗殺計画を続行するがいい」 「ありがとうごさいます」 「ただし、タイムリミットは、三連戦の終了までだ」 ぴしりとした口調で、全が言った。 「パルチサンズとエンジェルスのどちらが勝っても、《星雲三号》の発射実験は予定どおり決行する。 我われにとって、ロケット、即ち長距離ミサイルは、単なる兵器ではない。戦略であり、外交であり、国家そのものだ。分かるな?」 「承知しております」 全正勲が、ふと顔を上げた。庭園の柱のかげに、正装した侍従官が姿を見せている。 「どうやら、晩餐会の準備が終わったようだ。 今夜は、世界中から、友好国の使節が集まってきている。わが国のロケット発射実験を、世界が注目している証拠だ。 ――いいかね、三連戦終了までに決着をつけ給え。それ以上は待てない」 「畏まりました。一命に代えましても」 満足の表情を浮かべて、全が庭を去る。黄昏の帳の中、ひとり佇む烈花の唇が、誰にも聞こえぬ声で囁いた。 「私が、閣下を導いて差し上げます。 ――世界の覇権は、私たち吸血鬼(ヴァンパイア)の力によって、決まるのですから……」
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!