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第五章 S・O・S!エンジェルス
「誰!?」
闇の中に、女憲兵・趙水晶(チョン・スジン)の声が響く。
親衛特務総局直轄、第九収容所の、政治犯収容房。そこには、生まれたままの姿で、鎖に腕を吊るされた水晶の姿があった。
「――気分はどうかしら。趙水晶」
艶やかな女の声が響く。水晶が目を凝らすが、その姿は闇に紛れて捉えることができない。
「李烈花ね。あなたに話すことなど、何もないわ」
「相変わらず、強気ね。ま、嫌ならしゃべらなくてもいいけど」
どこか、楽しそうな口調で、烈花が応える。
「今回の犯行に、政治的背景がないというのは、調べがついているわ。
動機は、殺された父親の復讐。あなたには、戸籍上の父である憲兵隊幹部の他に、もうひとり、実の父親がいるのよね」
床を踏み鳴らす革靴の音が、ゆっくりと、水晶の周りを巡る。あたかも、闇の中で、水晶の躰をじっくりと観察するかのように。
「以前、主席暗殺を企て、逆に処刑された軍情報部の大佐。その父親の復讐が、今回の犯行の目的ね」
「その通りよ。――そこまで分かっているなら、銃殺でも何でも、さっさとすればいいじゃない」
鎖が、水晶の頭上でぎりりと鳴る。「いつまで、この姿で辱しめる積もりなの?」
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