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「遅いわよ。接敵機動は、もっと早く!」
腫れた顔に湿布とガーゼを当てたヒソカが、指揮台で声を張り上げた。
西東京の一角に設けられた、内務省専用演習場。塹壕から仮想の敵陣地に向かって、隊員たちが前進を繰り返す。
「ずいぶん張り切ってますねぇ、中隊長」
「落ち込んでいるのさ、中隊長(おふくろ)は」
新発田の声に、早川がぼそりと呟いた。「ユウキさんが入院中だからな」
「え?あれで……?」
「新発田。ジープのところで待機していろ。ユウキさんのことで、部長から連絡があるかも知れん」
「了解っス。待機します」
新発田が敬礼して、すたすたと駐車場に向かって歩き出す。それを見送る早川を、ヒソカが厳しい声で呼びつけた。
「曹長!」
「はいっ!」
「各個訓練の出来上がりだけど、どう思う?」
「八割方の仕上がり、というところでしょうかね」
「そうね」頷きながら、ヒソカが言った。「匍匐前進と、激動後の射撃にばらつきがあるわ。もっと、各隊員の練度を上げる必要があるわね」
「はっ……」
「何か、言いたそうな顔ね、曹長」
「い、いえ……その……」
「いいから、言ってみなさい」
「は……。その……どうでしょう……」
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