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大柄な肥後もっこすの曹長が、おずおずと口を開いた。
「いちど、横須賀の海軍病院に行かれては……」
「海軍病院?何しに?」
「フェアチャイルド投手のお見舞いに……」
「余計なことは考えなくていいわ、曹長」
「失礼致しました」
苛立たしげな表情を浮かべながら、ヒソカが、ひとり言のように呟いた。
「……ユウキは、集中治療室よ。見舞いに行ったところで、米軍さんに笑われるだけだわ。
こんな時だからこそ、仕事をしなくては……」
「は?」
「いや、何でもないわ」
足もとが崩れてゆくような、不安定な感覚。せめて仕事に打ち込んで、一瞬でもユウキのことを忘れなければ、自分が自分でなくなってしまうような気がする。
「中隊長!」
背後の声に振り返ると、駐車場に戻ったはずの新発田が、小走りに駆けてくるのが見えた。
「どうしたの、三曹?」
「そ、それが……、急に、部長が視察にお出でに……」
「部長が?」
おう、と声がして、新発田の背後から石原が現れた。
「大丈夫かね、大尉。訓練中と聞いたが、安静にしたほうがいいのではないかね」
「前歯が二本、差し歯になっただけです。業務に支障ありません」
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