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「そうですか……」
「それと、もうひとつ」口惜しげに俯くヒソカに、石原が続けた。
「フェアチャイルド監督から電話があってね。伝言を頼まれて来た。君に会いたいので、横須賀のアメリカ海軍病院まで来てくれないか、ということだ。夜でも構わないそうだ」
不安が、きゅっと胸を締め付けるのを抑えながら、ヒソカが応じた。
「分かりました 業務のあとで参ります」
「伝えておこう。――じゃ、私はこれで」
大きな石原の背が、ゆっくりと遠ざかる。
その日、いつもより厳しく中隊の訓練をこなしたあと、シャワーを浴びて、ヒソカは特警本部を後にした。
「この間は、本当にありがとう、大尉」
「いえ……。それより、ユウキの容態は……」
横須賀海軍病院の、長く薄暗い廊下を歩きながら、ヒソカが隣のジェイナスに尋ねた。
「いま、集中治療室だ。医師は、峠を越したと言っている」
「では、助かったのですね?」
「ああ」
ヒソカの顔が、一瞬、ぱっと明るくなった。
「よかった……。あれだけのけがで、よく……」
「君のお蔭だ、大尉」
ジェイナスが、ヒソカの肩を叩く。大きな手から、父親の温もりが伝わってくる。
「前回の襲撃でも撃たれたが、臓器などに異常はなかった。今回は、心臓こそ外したものの、動脈を損傷して、血液の四十五パーセントを失ってしまった。本当に危なかった」
「四十五パーセント……」
ヒソカが、驚きの表情を浮かべた。「確か、人間は、血液の三分の一を失うと死ぬはずでは……」
「ユウキは、人間ではない」
ジェイナスが立ち上がり、窓辺に歩み寄る。そして、しばし沈黙したあと、ヒソカに向かって口を開いた。
「聞かないのかね ユウキが何者か。あの夜、君が見たものは何なのか」
「私にとって、ユウキは警護対象です。彼女が健在であれば、何者であろうと関係ありません」
ジェイナスが振り返った。サングラスの奥の目が、ヒソカを凝視する。
「親しくなりすぎては、お嬢様は守れません。それに、任務と関係のない秘密なら、自分は知ろうと思いません」
「優秀だな、君は。部下に欲しいくらいだ」
頷いて、ジェイナスが続けた。「そのことは、あとで話そう。まずは、集中治療室だ。ユウキを見舞ってやってくれたまえ」
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