第一章 わたしピンクのサウスポー

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                              二〇一六年五月十七日                          三浦半島東部 神奈川県舘須賀市                             《太平洋大震災》被災現場 「何ということだ……」 大型軍用ヘリのタラップから降りてきた男が、小さく呟いた。 迷彩服に縫い付けた、大尉の階級章と、フェアチャイルドと書かれた名札。 米国第三海兵師団所属、ジェイナス・ハザマ・フェアチャイルド。三十代後半の精悍な顔が驚きに歪む。 踏み出した軍靴が、泥にのめり込む。 高さ二十メートルの津波がこの町を襲ってから、すでに一週間。地面は泥に覆われ、海岸線まで泥の海が続く無人の野と化していた 神よ、と呟いたジェイナスに、駆け寄る人影があった 「何だと」 髪を短く刈った下士官の耳打ちに、ジェイナスの顔色がさっと変わった。 「見つかったのか、《彼女》が?」 「はい、大尉(イエス・サー)」 「他に生存者は?」 「いません。彼女が、唯一の生存者です」 「分かった、行こう」 歩き出しながら、ジェイナスが言った。 「この地域は、二十メートルの津波で町全体が消えた。
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