第一章 わたしピンクのサウスポー

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十五年後 二〇三一年五月八日 時計が、午後八時半を回ろうとしていた。 開閉式のドームの屋根から覗く、初夏の夜空。輝くライトが、スタジアムを照らしている。 観客は、年齢も人種もさまざまで、ヨーロッパ系やアフリカ系アメリカ人、日本人、東アジアや東南アジア系の外国人の姿も、そこかしこに見える マウンドに目を転じれば、さまざまな人種の選手たちが、プレーで球場を沸かせていた。 東京・後楽園に位置する、全天候型プロ野球スタジアム。極東メジャー・リーグ球場。 九回裏を告げるアナウンスとともに、ベンチから出て来た、五十代半ばのユニフォームの男。あの、破壊された町で指揮を取っていた、海兵隊大尉の姿だった。 「タイム!」張りのある声で、ジェイナス・フェアチャイルドが言った。 「選手の交代を――」 「お待ちください、フェアチャイルド監督」 艶やかなアルトが響いて、ベンチへの階段を下りながら、ひとりの女が姿を現した。 すらりとした体を迷彩服に包んだ、切れ長の目の女。肩章に並んだ三つの桜星が、将校であることを物語っている。 「《彼女》を登板させるのですか?」 ノンフレームの眼鏡をライトに光らせて、前島ヒソカが口を開いた。
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