第三章 透明人間あらわるあらわる

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――いつしか、小雨が振りはじめていた。 都心を走る、ハードトップのロードスター。窓の外の街は、暗く濡れて未明の闇に沈んでいた。 「……着きました、大尉(サー)」 ササキの声が、ヒソカを現実に引き戻す。 首都警備師団駐屯地の営門。見慣れた哨所の前で、いつものように勤務する当直の姿が見えた。 「歩けますか?痛むのであれば、お手伝いしますが」 「大丈夫よ。ありがとう」 ハザード・ランプをつけたロードスターから、ヒソカが降り立つ。ゆっくりと、哨所へ歩み寄る視線の先で、若い当直隊員が敬礼している。 暗殺者。襲撃。死体。 ジェイナスと、秘密機関の男たち。 微笑むユウキの、唇に光る、白い牙。 そして……吸血鬼(ヴァンパイア)。 舗装路が、泥沼のように、足に絡みつくのを感じる。 「失礼します。大尉(グッナイト・サー)」 かすかにタイヤの軋む音がして、ロードスターのエンジン音が遠ざかる。血塗られた夜に置き去りにされ、ヒソカは、現実の世界に帰還した。
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