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その後 編 ネットカフェにて
未練を断つため、画材を捨てた。
使い始めていたリキテックスも、ペーパーパレットも、面相筆も捨てた。
食費を切り詰めて買いそろえた、百本を超えるコピックも捨てた。
「コピックは色ムラが出るから使い方に限界があるよ」と言われ、ムキになってその色ムラを抑えたり、逆に色ムラを生かす塗り方を追求したのも、今となっては無駄なことだった。
上質紙、イラストボート、ケント紙、キャンバス地、全て捨てた。
褪色しないように直射日光を避けて保存していたカラー原画も、折って、破って、捨てた。
徹夜して作ったオフセットの同人誌も、真ん中から破いて捨てた。
生原稿も破いた。
キャラクタの頬の線が気に入らずに何度も書き直し、ホワイトが盛り上がって立体的になってしまった、重い漫画原稿用紙を捨てた。
絵を描き始めた頃、さらにずっと下手だった、でももう二度と引けない、勢いだけの線と形のかたまりのような絵も捨てた。
イベントでいただいた差し入れのお菓子の、もったいなくて捨てられずにとっておいた箱も、潰して捨てた。
自分の心と思い出を、自分の手で握りつぶすようで、辛かった。
しかし、すぐに何ともなくなるだろうと思った。
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