1.晴天が嫌いだ

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 古本屋へと向かう足取りが重い。久々の外出で疲れてしまったのだろうか。それとも私はこの期に及んで、本を手放すことを躊躇っているのだろうか。古本屋まであと少しというところで、とうとう足を止めてしまった。バッグを開け、おもむろに本を眺める。すると一冊の本が目に入った。「愛こそ全て」辻田環のデビュー作だ。題名からして、美しい恋愛ものか...とうんざりしながら読み始めたのだが、良い意味で期待を裏切られた作品だ。愛という免罪符を手に、女たちがあの手この手で恋敵を騙し、時には犯罪にまで手を染める。そんなサスペンスだった。デビュー作でここまで黒い、汚いものが書けるのかと感動した私は、今やすっかり彼女のファンだ。バッグの中には彼女の本が全て詰め込まれている。  名残惜しさにページをめくっていると、若い女性から声を掛けられた。
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