黒・黒・黒

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 足元でガタンッという派手な音を立て、椅子が床に倒れ込んだ様だが、今はそんなことを気にしている時ではない。 「異常なしってどういうことだよ! 僕は現に盗撮されてるのに! 何で異常がないんだよ!」  僕は乱暴にパソコンの液晶画面に例の原稿を叩きつける。  と、不意に其処に表示されているこの原稿の最終更新日が目に入った。 「え……嘘だろ……十一月五日?」  それは、この yom yom短編小説コンテストの募集が開始された初日であり、今日から約2ヶ月以上も前の日付だった。 「この名無しってやつは、2ヶ月以上も前から僕を監視していたのか……?」  その時、僕の背筋を冷たい汗が滑り落ちていった様に感じたのは、きっと気の所為ではないだろう。  だがそれ以上に僕は、日付に違和感を感じていた。 「十一月五日……いや、待てよ。おかしいぞ! この時、僕はまだ、この下読みの仕事を受けていなかったじゃないか……! なのに、何でこの名無しは僕が下読みになった話を書けるんだ……?」  自分が選び、知る前から、顔も名前も見知らぬ誰かが自分の未来を先に知り、物語として書き、自分のいる編集部へと送り付けている。
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