ぼくのかわいい、でし

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 そのためならば、シンは手段を選ばなかった。自分の容姿が優れてることを知っていたシンは、それを存分に利用した。女優やモデル、時には同性のプロデューサーすら利用し、のし上がった。三国洋子はシンにとって踏み台の最後だった。三国洋子に気に入られ、大手AGEプロのお抱えになれば自分の名前が売れるとシンは考えていた。表舞台に立ち、名前が売れて、テレビや雑誌に自分が出演する。ごみのように扱われていたシンが、他人にちやほやされている姿を家族に見せつける。それが、シンの人間としての尊厳を踏みにじった家族への復讐の完成形だった。  そんな野心を抱えるシンの前に、ぽん、と現れたのが美羽だった。    美羽との出会いは偶然だった。  一人で動くには忙しくなってきた頃、懇意にしている美容学園から美羽をアシスタントとして紹介された。「君の大ファンでとても優秀な子がいる」と。  美羽は紹介された通り、優秀で勉強熱心だった。シンにとって、とても有難い存在だった。何よりも自分を「先生」と呼ぶ。たったその一言で、自分の奥底で燻っていた劣等感が軽くなった。生まれて初めて、『自分』という存在を認めてもらった。シンは言い様のない、爽快感、恍惚感、多幸感……言葉にするにはとても困難な感情を覚えた。 「先生、次の現場は!」 「先生、雨が降って来ましたよ」 「……先生、帰れなくなっちゃいましたね」  せんせい、と美羽の唇が動く度、シンは自身を自制するのに必死だった。     
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