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シンが、『シン』として生きていくためには、美羽の存在が不可欠だ。結婚して他の男のところへなど行かせない。シンの瞳の中に仄暗い決意が炎のように揺らめいた。
「みう……みう」
「あっ、あっ……せん、せい! せんせい!」
「みう、みう……ぼくのそばを離れていかないでくれ……」
「せんせい、先生……」
美羽の小さな身体に、恐ろしく凶暴な陰茎を叩きつける。
しかし今更、今までの信頼関係を根底から崩す行為だとシンの頭の中で警告音が鳴る。遠い昔、田舎にある実家で鳴り響いていた夜を知らせるサイレンによく似た音だ。おぞましい家族との時間の始まりの告げるサイレン。いつまでもシンを捉え、離してもらえない家族のしがらみ。
くるしい。だれか、助けてくれ。
サイレンの音が聞こえると、家に帰らなくてはいけない。家に帰ると、殴られ、いたぶられ、罵られ。地獄のような時間の始まりだった。
シンはもがいていた。助けを求めていた。頭の中をサイレンの音で侵食される。飲み込まれそうになった時、小さな音がシンの耳を震わせた。
救いを求めいたシンは、その音にすがった。溺れそう苦しみの中にたらりと垂らされた、蜘蛛の糸のようだ。切れないように、絶やさないように、シンはその糸を掴んだ。
「ぁっあぁん……! せん、せぇ……!」
蜘蛛の糸の正体は、美羽の柔い嬌声だった。
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