わたしのせんせい

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 今シンが担当している女優の三国洋子は、大のブランド好き。何から何までハイブランドのものを指定する。がしかし、シンはそれを知っていながら、違うものを毎回指定してきた。その方が三国洋子に似合うとシンが判断したからだ。  CとCHは美羽とシンの……二人だけの合言葉だった。  満足そうに鏡を覗く三国洋子に、美羽は胸をなで下ろした。分かってはいるが、この瞬間はいつだって美羽の胸を嫌な意味で高鳴らせた。 「ねえ、シン。いつもの、お願い」 「はい。洋子さん」  『いつもの』。その瞬間を見たくなくて、美羽は目を逸らす。狭いメイク室の中、白いライトに照らされたシンと、三国洋子。  美羽の存在など、空気を漂う塵のようだ。誰も、気にしない。在ることすら知られていない。  美羽の気持ちなど知らない二人は、ゆっくりと唇を重ねた。 「シン、それだけなの?」 「洋子さんのファンに叱られます。これは、キスじゃない……洋子さんをより良く美しく、より魅力的に仕上げる僕のテクニックです」 「……ほんと、ひどいおとこね」  ドラマのような濃厚なキスではない。軽く触れる程度のものだ。しかし美魔女と呼ばれる大女優と、男の人にしては線が細く色の白い中性的なシンが唇を合わせるだけで、ひどく倒錯的なものに見えた。     
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