わたしのせんせい

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 シンと三国洋子の世界に、美羽が入ることは出来ない。静かに見守る黒子に徹するのみ。現在のシンは、AGEプロ所属の三国洋子のお抱えメイクだ。この「塗りすぎたリップを拭う技術(キス)」も、三国洋子のみに発揮されていた。 「いつか、シンの特別なキスを味わってみたいわ」 「……洋子さん、もう一度言います。これは、キスではありません。僕の技術ですよ」  遠回しに拒否をするシンは、女優顔負けの美しい笑みを浮かべていた。三国洋子も、美羽もそれに見惚れる。 「わかった。あまりしつこくしてキスしてもらえなくなったら、私も困るわ」  そのタイミングで、テレビ局スタッフが「時間です」と、三国洋子を呼びに来た。またよろしくと言って立ち上がる三国洋子は、妖艶で匂い立つ色気を携えていた。これとひとえにシンの技術(キス)のお陰なのかもしれない。 「では、また……洋子さん……」  後ろ姿しか見えないが、シンは泣いている。いつも美羽はそう思っていた。  のし上がる為なら何でもするとシンが以前言っていたことを美羽は思い出した。理由は教えてもらえなかったが、その時のシンの表情は言葉で言い尽くせないほどの辛さを抱えているよう見えた。 「もっと、もっと有名になるんだ」  それがシンの口癖だ。  重なる唇も、そのためなんだと。  様々な化粧品やその荒れた手で唇を拭ったシンに、美羽の想いは師弟愛を超えた。     
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